絶景をブレで逃さない(注) ために
ブレテストレポート  その1 重量級35ミリカメラ、大口径望遠ズームレンズ+テレコン編

550×323
天と地の間  (白山翠ケ池から乗鞍岳と朝日に輝く雲海)
R7、R80-200/4×2; f9(実効)、1/125;  RVP; 三脚使用
1.はじめに
 「シャープな写真を撮りたい」とは世の写真を愛好される方々共通の思いです。そのために大枚をはたいて高価なボデーや写りが良いというレンズを買い求めます。フィルムもできるだけ微粒子のを使います。使える限り三脚やレリーズを使うのも当然です。しかしながら、このようにかなりの注意を払って撮影したとしても、現像してみると「なにかピントがちょっと甘いようだ」とか「雑誌等の入選作と比較すると、なんとなくボケているようだ」とか「使っているカメラは同じなのにどうしたのだろう」や、挙句の果ては「自分のカメラは外れだったのか、それともあの書評はヤラセだったのか」など、悩みはなかなか尽きないものです。斯く言う著者も例外ではありません。しかしながらこの原因の大半は、結局はわずかなブレであることが多いと言われています。

 本書は、世の写真愛好家のみなさまのこのような悩みの解消に少しでもお役に立てば との思いから、どの機材の組み合わせでは、どんなシャッタスピードでカメラブレが発生するか(発生しないか)」を調査するため、ボデー、レンズ、三脚、雲台の組み合わせ毎にシャッタスピードを変えてテスト撮影を行い、その結果として「カメラブレによるブレのない写真を撮るための参考データ(ボデー、レンズ、三脚、雲台の組み合せ毎に、ブレが発生するシャッタスピード)」を提示するものです。

 しかし実際の撮影条件は、撮影者や使用する機材はもとより、撮影現場の床や地面の状態、風や振動の有無など、どれをとっても今回のテスト環境と同じであることはなく、したがってここに提示したデータそのものも「ある撮影環境条件での一つの結果に過ぎない」ということをご了解の上、活用いただく必要があります。

 また著者は、読者が今回のテスト機材と同じものを使って撮影されたとしても、本書と同一の結果を保証するものではありません。

(注) このテスト以後、著者の撮影結果には、フィルムカメラ・デジタルカメラを問わず、三脚使用時のカメラブレはほとんど無くなりました。
   
2.テスト方法
2.1 使用機材
 今回のテストに使用した機材を次に記します。全体としてはボデー6台、レンズ10本、三脚11本、雲台13種に及んでいますが、この全ての機材を組合せるとテストケースが膨大になるため、実際上使われることが少ないであろうと判断した組合せについてはテストを行っていません。また一部の機材については、ごく限られた範囲のテストにとどめています。従ってそれらのテストを行わなかったケースのブレの発生具合については、他のテストケースの結果から推測していただくことになります。
  
2.1.1 ボデーとレンズ
 35ミリカメラで、ボデー総重量1kg以上の、いわば重量級に属し、風景撮影でそのボデーと組合わせて使用する頻度が高いと思われるレンズで最長焦点になるものを対象にしました。具体的には、80〜200ミリ/F2.8クラス大口径ズームレンズ+2倍テレコンバーター(エクステンダー)で、400ミリレンズとして使う場合を想定し、次の機材を使用しました。
 実際のテスト撮影においては、キヤノンEF35〜350/F3.5-5.6L USMを対象に含めたことと、ライカRのこのクラスのズームレンズの長焦点側の焦点距離が180ミリであり、2倍のエクステンダーをつけても360ミリが上限となることから、テスト条件をできるだけ統一するためとテストの省力化のため、レンズにニコンAiAFズームニッコールED80〜200/F2.8D<New>とタムロンAF28〜300/F3.5-6.3LDアスフェリカル(IF)マクロを使用した場合を除き、焦点距離を350〜360ミリで使用しています。 
 
    
ライカR8+モータードライブR8
 バリオApoエルマリートR70〜180/F2.8
  + Apoエクステンダー-R2×

 バリオエルマーR80〜200/F4
  + Apoエクステンダー-R2×(**)

 ApoズミクロンR180/F2
  + Apoエクステンダー-R2×(**)
ライカR7+モーターワインダーR
 バリオApoエルマリートR70〜180/F2.8
  + Apoエクステンダー-R2×

 バリオエルマーR80〜200/F4
  + Apoエクステンダー-R2×(**)

 ApoズミクロンR180/F2
  + Apoエクステンダー-R2×(**)
ニコンF5          
 AiAF-SズームニッコールED80〜200/F2.8D
  + AF-Iテレコンバーター TC-20E

 AiAFズームニッコールED80〜200/F2.8D(New)
  + Aiテレコンバーター TC-14BS(**)
キヤノンEOS-1NDP 
 EF70-200/F2.8L USM
  + エクステンダーEF2×

 EF35-350/F3.5〜5.6L USM

 タムロンAF28〜300/F3.5-6.3LD
              アスフェリカル(IF)マクロ(**)
ミノルタα−9  
 タムロンSP80〜200/F2.8LD
  + タムロン SP2倍テレコンバータ
コンタックスRX 
 バリオゾナー70〜210/F3.5
  + ムターT*II(2×)(**)

(注1)ミノルタα−9については、テスト実施時点でテレコンバーターが使用可能な純正の大口径ズームレンズが発売され
    ていませんでしたので、不本意ながら手持ちのタムロンのマウント交換式MFレンズを手動絞りで使用しました。

(注2)コンタックスRXは、本来なら今回の重量級ボデーには属しませんが、テスト中に借用する機会がありましたので、
    ごく一部のケースのテストを行いましたが、テストした範囲では最もブレにくいボデーでした。

(注3)その他の(**)印の機材については、この節の最初に記しましたように限定したケースについてのみテストを行って
    います。

(注4)以降の記述では、ボデーおよびレンズ名を次の様に簡略して表記することがあります。
    また、レンズにテレコンバーターやエクステンダーを装着した状態を、簡略したレンズ名につづけて単に「×2」と
    記述して表すことがあります。

 ・カメラボデー
    ライカR8: R8、 ライカR7: R7、 ニコンF5: F5、 ミノルタα−9: α−9、
    キヤノンEOS-1NDP: EOS1NDP、EOS1N または 1NDP、 コンタックスRX: RX  

 ・レンズ
    ライカ バリオApoエルマリートR70〜180/F2.8: R70−180/2.8
        バリオエルマーR80〜200/F4: R80−200/4
        Apoエクステンダー-R2×: 2×Apoテレコン または単に 2×
    ニコン AiAF−SズームニッコールED80〜200/F2.8D: AF−S80−200/2.8
        AiAFズームニッコールED80〜200/F2.8DNew: AF80−200/2.8
        AF−Iテレコンバーター TC−20E: TC−20E または 単に 2×
        Aiテレコンバーター TC−14BS: TC−14BS または単に 1.4×
    キヤノンEF35〜350/F3.5−5.6L USM: EF35−350 または単に35−350
        EF70〜200/F2.8L USM: EF70−200/2.8または単に70−200
        エクステンダーEF2×: 単に2×
    タムロンSP80〜200/F2.8LD: SP80−200/2.8
        SP 2倍テレコンバータ: SP2× または単に  2×

    コンタックス バリオゾナー70〜210/F3.5: VS70−210/3.5 または 単に 70−210
        ムターT*II(2×): 2×


   
2.1.2 三脚脚部
 数多くの三脚の中からいくつかを選択するのはなかなかの困難を感じますが、今回は春〜秋の日本アルプス級の山岳を含むフィールドで使用することを前提に、おおむね次の基準で選択しました。

@三脚メーカーのカタログ上で上記のボデーとレンズクラスで「使用適(○)」以上の表記
 がある
A三脚だけの縮長が約60cm以下、エレベータを伸ばさず、脚だけ伸したときの高さが約
 120cm以上である
Bローアングルまたはセミローアングルで使える
Cステーがなく、傾斜地、段差がある地面などでも据え付けやすいと思われる
D販売店の店頭などで良く見かけることがあり、比較的入手しやすいと思われる

 なおこの基準全てを満たしてはいませんが、著者がこれまで何度か使用してきた手もとのスリックグランドマスタースポーツアクトと、軽量三脚の事例としてベルボンマウンテンチェイサーIIをテスト対象にふくめることにしました。結局使用したのは次の9本です。なお以降の文では( )内のよう簡略して記述することがあります。
  
 ベルボン マーク6G(6G、MK6G)、 カルマーニュ640N(640N)、
      カルマーニュ530(530)、
      マウンテンチェイサーII(MTCII)
 スリック グランドマスタースポーツアクト(GMSA、GMスポーツアクト)
      PRO803CF(803CF)
 ジッツォ G328、 G226、
      マウンテニアG1228mk2(G1228mk2、G1228MKII または G1228II)

   
ベルボン
マーク6G        640N 

ベルボン
530         
フィールドエース(*)
        MTCII
スリック
GMSA        
      500DX(*)  803CF
  





(*)この三脚は今回のテストでは
使用しておりません。
 
ジッツォ
G228(*)、 G328    
          G1228mk2

ジッツォ
G226      G126(*)
  
  
   
2.1.3 雲台
 三脚と同様にフィールドでの使用を前提に、三脚メーカのカタログと量販店店頭での実物調査により、まずテスト用ボデー・レンズ・三脚と比較して、重量・大きさ・耐荷重・価格・操作性の点でバランスがとれそうで、使用中、ボデーとレンズの安全性が比較的高いと思われるものを中心に選択し、さらに
@評価基準として使えそうなもの
A最近のカメラ雑誌等で高い評価記事が目に付いたもの
Bテスト対象の脚部とセットで販売されていて、結果的に比較的安価に入手可能で、他の脚部と
 組み合わせても実用になりそうなもの
Cセット商品としての性能に興味が沸いたもの 
を追加しました。 結果的には自由雲台8種、3ウェイ雲台5種の次の13種となりました。なお以降の文では( )内のよう簡略して記載することがあります。

アルカスイス 
カンボ
ベルボン


スリック
ジッツォ

ハンザ
モノボールB−1(B−1)
CBH−5(CBH−5)
PH−273、PH−263、PH−173、
PH−460(カルマーニュ640IIとのセット雲台、単体販売あり)、
PH−756(カルマーニュ530とのセット雲台)
SH−706(プロ803CFとのセット雲台)
G1275M(G1228mk2とのセット雲台、単体販売あり)、
G1270M、G1371T
Pro65、Pro55

 先にも記しましたように、一部の雲台についてはごく限られた範囲のテストにとどめています。自由雲台が多いのは、フィールドとしての山岳での使用も含めて、可搬性を重視したためです。3ウェイ雲台5種については、ベルボンPH−460、PH−756、スリックSH−706は脚部とセット販売されていて比較的安価に入手できることとセット商品としての性能に興味があったこと、ジッツォG1270M、G1371Tの2つは、カメラ取付座のプレートが広く、取付けネジとは別に 3/8インチの雌ネジが切られているので、そこにボルトを通し下からレンズを支えることで2点支持とすれば、ブレ低減に有効なのではないかと期待したことから使用しました。この後者の期待は、残念ながらテスト結果表のとおり、あまり満たされませんでした。


B-1、 CBH-5、PH-273、       
           PH-173、PH-263
G1275M、 Pro65、 Pro55 
 G1371T、    G1270M
 
SH-706、 PH-460、 PH-756
 
  
2.2 テスト環境、被写体およびテスト撮影方法
 社内に直線距離で5メートルの見とおし距離を確保できるスペースを用意し、その一端に500W2灯のライトスタンドで照明したブレテスト撮影用被写体(以下では被写体と表現)を、他の一端に撮影機材一式を設置して、仮設スタジオとしました。テスト撮影開始当初は床をフローリングの状態(写真1)のままにしていましたが、三脚石突きによる床の損傷を防止する必要と、床の状態の違いがブレテスト結果に及ぼす影響を検証する必要を感じたため、写真2(20cm×20cm×6cm、約6kgのブロックに上に直径7cm×厚さ3mmの硬質ゴム敷)、写真3(写真2からゴムを撤去)と床の状態を変え、その他の条件を同一にして比較テストを行ったところ、その結果に目立った差が出ませんでしたので、テストの大半を写真3の状態で撮影しています。
 被写体には、当初はカメラ雑誌のレンズテスト等でよく使用されているテストチャートを使うつもりでしたが、入手難からまず自作をし、その評価を行い、その結果から自作品で進めることにしました。テスト撮影中に多少手直ししています。
 その後特注のテストチャートを入手しましたので、次の企画からはそれを使う予定ではいます。

 後の分析・整理作業でのミス防止と省力化のため、使用機材名、露出値等々のデータはフィルム1コマの撮影毎に被写体の一部として同時記録されるようにしました。仮設スタジオのことでもあり、照度をコントロールする照明設備がないため照度はほぼ一定とし、露出モードをボデーの操作性に応じてシャッタスピード優先かマニュアルとしました。1コマ毎に、被写体のなかの使用機材名、シャッタスピード(ss値)、絞り(f値)、その他の撮影データを書換え、次にボデーのシャッタスピードと絞値を設定し、その後ケーブルレリーズによりシャッタを切っています。
写真1 写真2 写真3


  
2.3 テスト撮影実施と結果の評価
525×350 バラ
霊山寺のバラ  R8、R180/2×2; F5.6(実効)、1/125; RVP; 三脚使用
2.3.1 テスト撮影実施
 テストを開始した当初は、どのようにな結果になるかがわからなかったことと、同一条件でも何らかの原因により異なった結果になる可能性があると思われたことから、1つのテストケース(注) ごとに2コマの撮影を行いました。このようにして撮影したフィルム24本360ケース(フィルム1本について、同一機材で、シャッタスピード:ミラー通常1/4〜1/500秒の8ケース、ミラーアップ1/4〜1/250秒の7ケース計15ケース)の結果を分析したところ、同一テストケースの2コマの間に差が出たのは2%未満でしたので、その後は1テストケース毎に1コマ撮影することにしました。またこの結果では、ミラー通常で 1/250秒と 1/500秒の場合、およびミラーアップではほぼ全てのケースについて、問題となるほどのブレが見とめられませんでしたので、その後ミラー通常では 1/500秒を、ミラーアップでは 1/250秒をテストの対象外とし、さらにミラーアップについてはテスト撮影を全て省略したケースもかなりの範囲におよんでいます。
 レンズの最小絞り(絞値最大)を使わないようにするため、1/4秒および1/8秒ではND4フィルタを使用しました。
 テスト撮影用フィルムには、大半に富士フィルムのトレビ400を使用し、ごく一部にトレビ100またはコダックのダイナ400を使用しました。


(注)テストケースは、使用するボデー、レンズ、三脚、雲台、撮影距離、ss値、f値、ミラー通常・アップの別、横位置・
   縦位置の別で決めています。このどれかがユニークであれば、それが1つの独立したテストケースとなります。

  
2.3.2 テスト撮影結果がブレているか否かの評価
 今回のテストで最も困難を感じさせられた部分です。
 テスト撮影結果のポジフィルムを1コマずつ16倍のルーペ((ピーク製ズームルーペ816))で目視し、その中で、被写体の線、文字、縞馬画像がどのように写っているかにより、各コマを◎、○、□、△、×の5段階に評価・分類することとし、この作業の途中で●(○と□の間)を追加設定しました。
この第6段階の意味は次のとおりです。
 ◎:ほとんどブレが生じていない。
 ○:極くわずかにブレが認められる。
   または、ほとんどブレが生じていない(◎)ようであるが、その判定が出来ない。
   なおss値 1/250は絞り開放での撮影のため、評価が○であってもレンズの
   絞開放時の解像力の限界のため◎の判定ができず、○になった可能性があります。
 □:明らかにブレが認められる。2Lサイズ程度までならあまり目立たないであろう。
 △:かなりブレている。
 ×:大変大きくブレている。
 ●:○の□の間

 なおテスト結果全体を見わたしてブレ発生の程度に最も差がでている、シャッタスピード 1/15〜 1/125秒のテスト結果について、実際のテスト撮影写真をPhoto−CDに入力し、その中心部を切り抜き拡大し、参考画像データとしてこのCD−ROMに含めています。より詳しくは3.2を参照下さい。