3.3 三脚と雲台の評価
先にも少しふれましたが、テスト撮影を始めるまでは、テスト用に用意した三脚のなかでは、おそらくベルボンマーク6Gが最もブレ難く、ベルボンマウンテンチェイサーIIが最もブレ易いだろう、また雲台では、G1371TやB−1、CBH−5がブレ難く、ベルボンPH−263やスリックSH−706がブレ易いであろうと予想していました。しかしながらこの予想は実際にテストをはじめてすぐに間違っていることを知らされることとなりました。
今回のテストが80−200ミリクラス大口径ズームレンズ+2倍テレコンバータというかなりブレ易い組合せを対象にしているとはいいながら、このテスト結果からは、今回の様な機材の組み合わせでは、カメラブレの大きさは三脚と雲台の大きさや重量よりも、その振動吸収性と、より以上にボデーとレンズ、特にボデーのミラーショックの大きさやその吸収・減衰性能によって決まる部分が大きいのではないか と考えざるをを得ないものでした。ベルボンマウンティンチェイサIIが、今回のボデーとレンズで使用するにはおそらく限界を超えていてブレブレになるであろうとの予想に反し、テスト結果では意外にもブレ難い方に入っています。 これもその辺に原因があるのだろうと推測しています。
では、大きく重い三脚や雲台は必要ないのか といいますとそんなことはなく、そのような三脚や雲台を使った場合、ファインダをのぞきながらの光軸合わせが容易であり、重いボデーやレンズを乗せても安定感があります。操作性も良好です。たとえばマウンテンチェイサーIIなら、ファインダをのぞきながら三脚座や雲台のロックを緩めて被写体に向けて光軸を合わせ、レバーやノブを締めつけてロックした後ボデーやレンズから手をはなすと、ファインダの視野つまり光軸が大きくズレてしまいます。これは光軸を合わせた後、レバーやノブを締めつけているとき三脚や雲台が微妙にねじれを起こし、手を離したときそのねじれがもとに戻るために生じています。
大きく、重い三脚や雲台ではこのようなことはわずかです。また今回のテストは室内で行いましたので風の影響は全くありませんが、フィールドの場合は軽い三脚や強度が不充分な三脚では風によるブレと転倒や、重心が高位置になることによる転倒を考慮しなければなりません。 もっとも、今回のテスト結果が当初の予想と異なった部分が多かったように、風の影響下でも予想外の結果にならないとは断言はできませんが。
3.3.1 三脚脚部
テストに使用した三脚脚部について、一連のテスト撮影を通じて主に操作性から見て気がついたことを記します。この節の写真では雲台がついていますが、撮影したときその雲台をたまたまつけていただけで、特別な意図はありません。
また記述のなかの、雲台ロック後のファインダ光軸のズレ量、最上段の脚部を捻ったときのたわみによる光軸のズレ量、手で軽く揺すったときの光軸のブレの幅と停止するまでの時間は、センターポールを約3cm伸ばし、雲台PH−173、ボデーニコンF5、レンズAF−S80−200/2.8+TC−20Eテレコンバータにより、合成焦点距離約360ミリで約5メートル先の被写体を覗き、被写体上の目盛りにより目視で測定して得た振幅相当の値です。光軸を合わせるときは、ボデーではなく雲台の台座を持って行い、雲台表面の緩衝材の影響を極力除くようにしています。なお、測定装置や記録計、力圧計等の試験設備を使用してはいませんので、極めて感覚的な数値です。
被写体の大きさは約w47cm×h32cmですので、左右のズレ量1cmは2.1%、上下の1cmは3.1%になります。
寸法および重量は脚部のみの場合を示しています。寸法はmm単位で実測してcm未満を4捨5入し、重量は5g単位での実測値です。 なお、第4章にも一括して掲載しておりますので、あわせてそちらも参照ください。
1)ベルボン マーク6G
アルミ合金3段、縮長58cm、センタポールを伸ばさないときの高さ121cm、全高138cm、ローアングル32cm、重量2,880g
通常は雲台とセットで販売されていますが、今回のテストでは脚部のみ単独販売されているものを使用しました。脚部の機密性が高いためか、伸縮し始めにかなりの力が必要です。少しねじるようにしながら行えばいくらか軽くなります。最もこれは新品の状態だけかもしれません。エレベータの上下はスムーズで、ハンドル式のため高さの微調整も容易です。更にエレベータをロックせずに手を離しても自重で下がってこないようになっています。
雲台をロックした後、手を離したときの光軸のズレは上に5〜6mm、最上段の脚部を軽く手でねじったときの光軸のズレは2cm、手で揺すったときの横ブレの幅とブレが収まるまでの時間は夫々1〜2mm、1秒ほどでした。
テスト開始前はこの三脚とモノボールB−1雲台の組合せをブレが最も少ないであろうと期待し、今回のテストの「リファレンス」にしようと考えていましたが、テスト初期の時点でカルマーニュ640N+PH−273との比較をしたところ、その期待が誤りであったことを知らされました。
全体的に見ても、ブレに関する限りはこの三脚より640N、G226、G1228mk2、グランドマスタースポーツアクトのほうが優れているという結果になりました。ミラーショックの振動が雲台や三脚で吸収されずに一体となってブレてしまうか、反射してボデーに戻されてきて、カメラブレを発生させてしまっているのではないかと推測しています。
2)ベルボン カルマーニュ640N
カーボン4段、縮長46cm、センタポールを伸ばさないときの高さ118cm、全高150cm、ローアングル40cm、重量1,395g
国産のカーボン三脚としては最初期の製品の一つであったカルマーニュ640の改良型です。テストの時点で640II型が発売されていましたので、既に旧型ということになります。640II型との大きな相違点はセンタポールのロック方法で、640Nが、ジッツォ社が言うラピッド式であるのに対し、640II型ではセンタポールを横からボルトで押さえつける方式をとっていることです。著者が640Nを気温−5℃程度の環境で使用したとき、センタポールを固定するロックナットがグリースの硬化か部材の収縮かにより動かなくなってしまったことがありますので、この点では640II型のほうが優れているといえます。脚部の材質や太さ、脚のロック方法、段数など、三脚としての基本的な部分は変わっているように見えませんでしたので、テストには手持ちの640Nを使用しました。
脚部の伸縮はスムーズですが、ロックナットがなかなか完全にロックされた感じがしません。たとえば上段をロックした後、長さの微調整のため下段のロックを緩めようとすると上段が回ってしまうということがよくありました。センタポールの伸縮は上記のとおりラピッド式で、手で直接上下する方式ですので微調整にはやや手間取ります。また上に記しましたように、環境によってはセンタポールのロックナットが回らなくなることがあります。
雲台をロックした後手を離したときの光軸のズレは上に8mm、最上段の脚部を軽く手でねじったときの光軸のズレは3cm、手で揺すったときの横ブレの幅とブレが収まるまでの時間は夫々1〜2mm、1秒ほどでした。
重量1.4kgの軽量三脚ですが、今回のテストでは全9本の中では平均的で、マーク6GやG328などの約2倍の重量の三脚よりも僅かながらブレにくいという結果になりました。
3)ベルボン カルマーニュ530
カーボン3段、縮長50cm、センタポールを伸ばさないときの高さ106cm、全高142cm、ローアングル16cm、重量1,105g
640Nより1回り小型の3段三脚です。軽量をカバーするためかストーンバッグが付属しています。またPH−756という平型雲台とのセット商品ですが脚部のみ購入することもできます。脚部は細いですが、見た目よりはしっかり感があります。センタポールの伸縮はラピッド式で、途中で分離できるようになっており、極力低いローアングルをとるには便利です。センタポールを伸ばした時はブレが気になるところです。横からの細いボルトでロックします。少しガタがありますが、動きはスムーズでした。
雲台をロックした後手を離したときの光軸のズレは上に1cm、最上段の脚部を軽く手でねじったときの光軸のズレは約3.5cm、手で揺すったときの横ブレの幅と収まるまでの時間は夫々2〜3mm、1.5秒ほどでした。
本来は今回のような重量級ボデー+重量級超望遠レンズと組み合わせて使う三脚ではないのでしょうが、「使ったらどうなるか」を確認するためF5とEOS1NDPでのみテストを行いました。
機材をセットしたあと手で揺らしてもブレの納まりが早く、光軸をロックするのも比較的早くできました。カメラブレテスト結果は今回テストした中では平均的で、640Nとほぼ同等の結果になりました。
4)ベルボン マウンテンチェイサーII
アルミ合金4段、縮長42cm、センタポールを伸ばさないときの高さ106cm、全高131cm、ローアングル16cm、重量1,550g
ベルボン社のチェイサーシリーズの中の一つであり、ローアングルからハイポジションまで対応可能ですので、名前のとおり山岳などで使用するのには適しているでしょう。通常はPH−157という小型の1レバー1ハンドル3ウェイ雲台とのセットで販売されていますが、テストでは脚部のみを使用しました。脚部もセンタポールも細く、触るとやや頼りなげです。 脚部の伸縮のロックはレバー式で、スピーディに操作できます。センタポールの伸縮はハンドルによるエレベータ式で、微調整には便利です。このセンタポールも530同様、途中で分離できるようになっていますので、ローアングル、ブレの心配は530で述べたことがそのまま当てはまります。センタポールは横からの細いボルトでロックします。ガタはやや大きめですが動きはスムーズです。
雲台をロックした後手を離したときの光軸のズレは上に1.5cm、最上段の脚部を軽く手でねじったときの光軸のズレは約6cm、手で揺すったときの横ブレの幅と収まるまでの時間は夫々6〜7mm、3秒ほどでした。
この三脚も本来は重量級機材と組み合わせて使うことを前提にはしていないのでしょうが、530と同様な意味でF5とEOS1NDPによりテストをおこないました。今回テストしたベルボンの4本の三脚の中では、「室内」という条件の下ですが、最もブレが少ないという結果になりました。ただし、ファインダの視野や光軸をロックする作業では、脚部のねじれやたわみによる光軸のズレが大きいため、他の三脚より手間取ります。屋外での使用時は、重量バランスと風の影響を考慮する必要があります。
5)スリック グランドマスタースポーツアクト
アルミ合金、4段、縮長48cm、センタポールを伸ばさないときの高さ110cm、全高115cm、ローアングル19cm、 重量1,905g(標準品の場合)
縮長48cm、センタポールを伸ばさないときの高さ110cm、全高135cm、 ローアングル36cm、 重量2,010g(センターポールをオプションの長いものに交換した場合)
スリック社の中型三脚であるグランドマスター系列の中では縮長が最も短い三脚で、可搬性に優れています。標準品のセンターポール(スリック社のカタログでは「雲台受」)は19cmしかありませんが、テストではオプションの30cm長のロングポールに交換したものを使用しました。
脚部は肉厚パイプによる4段式のため、最下段は細めです。脚部のガタは大きいほうですが、ロックするとがっちりします。ロックナットは厚手のゴム巻で、締めやすく、実際良く締まります。センタポールはハンドルによるエレベータ式で、太く、ガタが少なく、上下動もスムーズです。微調整も容易です。
雲台をロックした後、手を離したときの光軸のズレは上に1mm、最上段の脚部を軽く手でねじったときの光軸のズレは2.5〜3cm、手で揺すったときの横ブレの幅とブレが収まるまでの時間は夫々1.5mm、1.5秒ほどでした。
ブレテストはF5とEOS1NDPでのみ行いましたが、F5ではG1228mk2、G226と共に最もブレが少なく、EOS1NDPでも比較的良い結果になりました。
なお、この三脚は2001年6月からカタログ落ちになっています。
6)スリック PRO803CF
カーボン、3段、縮長55cm、センタポールを伸ばさないときの高さ126cm、全高153cm、ローアングル37cm、 重量1,200g(標準のセンタポールを使用した場合)
縮長55cm、センタポールを伸ばさないときの高さ126cm、全高131cm、ローアングル22cm、 重量1,145g(オプションのショートポールを使用した場合)
スリック社の軽量カーボン三脚で、長さや重量的にはベルボン社のカルマーニュ630と530との中間の位置付けになります。店頭ではSH−706という小型の雲台とセットで販売されていました。
脚部のガタは少なく、ロックナットも締めやすいです。センタポールはラピッド式です。標準品の場合、ローアングルは37cmと高めですが、オプションのショートポール(雲台受)と交換することにより、22cmまで下げることができます。テストはこのショートポールに交換したものを使用しました。
雲台をロックして手を離したときの光軸のズレは上に1cm、最上段の脚部を軽く手でねじったときの光軸のズレは4cm、手で揺すったときの横ブレの幅とブレが収まるまでの時間は夫々2〜3mm、2秒と、カルマーニュ530と同様な値でした。
ブレテストはF5とEOS1NDPでのみ行いましたが、どちらでもカルマーニュ640Nとほぼ同等の、平均的な結果になりました。
7)ジッツォ G328
アルミ合金4段、縮長59cm、センタポールを伸ばさないときの高さ149cm、全高169cm、ローアングル35cm、重量3,090g
ジッツォ社の3型に属する中クラスの三脚で、脚部のみでの販売です。当初はテスト対象ではなかったのですが、ベルボンマーク6Gが予想に反し、「特にブレにくいとは言えない」と言う結果になったため、「他の同クラス三脚ならどうか」と思い、途中でテスト対象に含めました。脚部の機密性は高い方ですがマーク6Gほどはなく、伸縮はスムーズに出来ます。エレベータはハンドル式で、上下動も高さの微調整もスムーズです。エレベータのロックはラピッド式と同様なナットですが、ロックせずに手を離しても自重で下がってこないようにストップレバーがついています。
雲台をロックした後、手を離したときの光軸のズレは上に6mm、最上段の脚部を軽く手でねじったときの光軸のズレは2cm、手で揺すったときの横ブレの巾とブレが収まるまでの時間は夫々2mm、2秒とマーク6Gよりわずかに大きくなっています。
ブレテストの結果はマーク6Gと似た傾向を示し、R8では雲台により多少差がありますが、ベストのG1228mk2よりシャッタスピードで約半段分ブレやすく、マーク6G、640Nとほぼ同等、F5ではこの三脚が最もブレ易く、EOS1NDPとα−9でもブレ易い方に入るという結果になりました。
この三脚は今回のテスト用に2001年3月に購入しましたが、2001年6月現在カタログ落ちになっており、後継機(3型4段ギヤコラム)はまだ発売されていないようです。
8)ジッツォ G226
アルミ合金4段、縮長45cm、センタポールを伸ばさないときの高さ114cm、全高146cm、ローアングル27cm、重量1,905g
ジッツォ社の2型の中〜小型三脚で、脚部のみの販売です。 脚部の伸縮、センタポールの上下動共にスムーズです。センタポールは2段になっていて32cmも伸ばすことが出来、そのため縮長45cmでありながら、全高は146cmになりますが、ここまで伸ばしてブレない写真を撮るには用途を限定するなどの注意が必要でしょう。センタポールのロックはラピッド式ですので、高さの微調整にはやや手間取ります。
雲台をロックした後、手を離したときの光軸のズレは上に10mm、最上段の脚部を軽く手でねじったときの光軸のズレは3.2cm、手で揺すったときの横ブレの巾とブレが収まるまでの時間は夫々約2mm、2秒でした。
ブレテストの結果はばらつきが大きく、R8ではテストした全三脚の平均以下で、G1228mk2よりシャッタスピードで1段分、G328、マーク6G、640Nよりわずかにブレ易く、F5ではG1228mk2、グランドマスタースポーツアクトとともに最もブレ難く、EOS1NDPでは、EF35−350との組合せでは最もブレ易い方に入り、EF70−200/2.8+2×テレコンの組合せではブレ難いほうから3番目、α−9でもブレ難い方でした。
この三脚は2001年6月現在カタログ落ちになっており、G1226が後継機のようです。
9)ジッツォ マウンテニアG1228mk2
カーボン4段、縮長53cm、センタポールを伸ばさないときの高さ133cm、全高156cm、ローアングル36cm、重量1,535g
カーボン三脚としては最も早く発売されたG1228の改良型です。通常は脚部だけの販売ですが、テスト開始時点ではG1275M雲台とのセットでの特別セールが行われていました。G1228型からの変更点として目についたのはセンタポールのロックリングがカーボン樹脂の成形からアルミ合金になったことです。小さな変更点ですが、G1228型ではこのロックリングを締付けるときエッジで指が痛くなりましたが、このmk2ではそういうことがなくなりました。
脚部の伸縮はスムーズですが、640Nもそうでしたが、脚部のロックナットを締付けたとき、なかなか完全にロックされた感じがしませんでした。たとえば上段をロックした後、長さの微調整のため下段のロックナットを緩めようとするとロックしたばかりの上段が回ってしまうという頻度が多めでした。センタポールの伸縮はラピッド式で、手で直接上下する方式ですので微調整にはやや手間取ります。
雲台をロックした後、手を離したときの光軸のズレは上に8〜10mm、最上段の脚部を軽く手でねじったときの光軸のズレは2.2cm、手で揺すったときの横ブレの幅とブレが収まるまでの時間は夫々1〜2mm、1.5秒ほどでした。
ブレテストの結果は、使用するボデーとレンズによって多少の違いがあるものの、平均的には今回の9本の中では最もブレが少ない三脚になりました。R8では、差はわずかですが全ての中で最もブレ難く、F5ではグランドマスタースポーツアクトに次いで2番目、EOS1NDPとα-9でも最もブレ難い三脚でした。
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